大切にされたことがないと思っていました

物心ついた時から父親は仕事で単身赴任、母親は毎晩のようにお酒を飲みに出る、そんな家庭に育ちました。中学の時に母親は男をつくって出ていき、父とは離婚。私は祖父母に育てられました。しかし、「両親の離婚をなぜ止めなかったのか」と責められる日々。「この家には自分は必要じゃない」と思い、高校進学と同時に祖父母の元から離れました。
私に家族と過ごした記憶はほとんどありません。家族行事などしたこともなく、自分の成人式をお祝いしてくれる人もいなかったので、振り袖を来て式典に参加することすらありませんでした。ましてや家族写真なんて撮った記憶も見た記憶もありません。「一人で生きてきた」「誰からも大切にされなかった」と、長年思い続けてきました。

生まれ育った家を出て20年程が経ち、突然身内からの連絡で祖父の他界を知らされました。漁師をしていて、昔ながらの頑固なじいさん。90歳を過ぎても元気に漁に出ていた祖父の他界。少し淋しいとは思いながらも、思い出というものが少なく、大きな悲しみを感じることがなかったです。
見送りが落ち着き、遺品を整理していたときのこと。古いアルバムに沢山の写真を見つけました。まだ写真がカラーになったばかりの時代でしたが、かなりの枚数が出てきました。見ると私の幼少期の写真もたくさんありました。家族全員で写っているものや昔飼っていたペットと写っているもの。祖父に抱っこされた私が写っているものも沢山見つけました。写真の中ではみんなが笑っています。それを見て、「あぁ、私にも大切にしてくれた家族がいたんだ」と思い涙が出ました。
祖父の膝に座って満足げにバナナを食べている私。一枚だけコッソリ持ち帰りました。

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